GLOBAL FINANCE / MONEY FLOW

強いのは、安く借りる国ではなく、借り方を選べる国

米国が海外から低コストの資金を受け入れ、海外でよりリスクの高い資産を持つ構造を、日本の対米投資、円キャリー、日本国債に分けて検証する。

強いのは、ただ貸せることでも、ただ借りられることでもない。預金、国債、社債、株式、直接投資という複数の入口を持ち、金利、期間、通貨、相手を選べる立場にいることだ。参照動画の終盤にあるこの視点を、米国の対外バランスシートへ戻して考えた。動画の言い回しは借りず、公開資料で検証する。

米国は2026年1~3月期末に、海外へ43.37兆ドルの資産を持つ一方、海外に対して64.64兆ドルの負債を抱えていた。差額はマイナス21.27兆ドルである。数字だけなら巨大な純債務国だ。それでも資金が集まりやすいのは、米国債だけでなく、ドル預金、社債、株式、直接投資まで、世界が保有できる器が多いからだ。

ここでいう「安く調達して高く運用する」は、政府が借りた資金を一つの財布から海外株へ移す話ではない。海外の政府、銀行、保険、年金、企業、個人が比較的安全で換金しやすい米国の負債や株式を持ち、米国の企業や投資家は海外の株式、子会社、知的財産、融資などを持つ。国全体で見ると、主体も満期もリスクも異なる資産と負債の組み合わせである。

日本はこの資金源に入っている。米財務省の2025年6月末調査では、日本居住者の米国証券保有は2.883兆ドルで、外国全体35.349兆ドルの約8.2%だった。内訳は米国株1.169兆ドル、長期米国債1.024兆ドル、政府機関債0.250兆ドル、社債0.315兆ドル、短期債0.125兆ドルである。日本が米国へ差し出す資金は国債だけではなく、株式や社債にも分かれている。

では円キャリートレードは何割なのか。正確な割合は出せない。円を借り、ドルなどに替え、高金利資産を買う取引は確かに米国資産への需要になり得る。しかし為替スワップや先物を使う取引は貸借対照表にそのまま現れず、買った先が米国債、米国株、他国通貨のどれかも統計から分離できない。BISも、円建て借入額からキャリー用途だけを識別できないと明記している。

目安はある。BISが把握した海外非銀行部門向け円建て銀行融資は2024年1~3月期に2,710億ドルだったが、キャリーとは限らない。円を片側に持つ為替デリバティブの想定元本は2023年末に14.2兆ドルあったものの、大半にはヘッジや流動性管理が含まれ、米国の安い資金源として足し算できない。ヘッジファンドの為替先物ポジション推計約1,600億ドルも、行き先が米国とは限らない。したがって「日本の対米証券保有は外国保有の約8%」までは確認済み、「そのうち円キャリーが何割」は未確認が正しい。

日本国債はどうか。米国が日本国債を大量に買って、それを高く運用しているという意味では、この説明の中心ではない。むしろ日本国債や日銀当座預金は、円を供給する銀行が一時的に置く安全資産になり得る。そこから為替スワップを介してドル資産へつながる場合はあるが、日本国債そのものが米国への資金移転になるわけではない。日本の投資家が米国債や米国株を買う流れと、海外投資家が円を調達するキャリーは、重なる場面があっても別の取引である。

米国の強みを利ざやだけで説明するのも危うい。2026年1~3月期の第一次所得収支は赤字へ転じ、資産価格と為替で対外純資産も大きく動く。ドル高は海外資産のドル換算額を減らし、米国株高は外国人が持つ米国負債の時価を押し上げる。高く運用できることが毎期保証されているわけではない。

それでも選択肢の多さは残る。米国は政府、企業、金融市場が別々の条件で世界から資金を受け入れ、借換え、長期化、株式化を選びやすい。貸す力より、貸し方を選べることが強いのと同じように、借りる側も借り方を複数持つほど、一つの金利や一人の貸し手に縛られにくい。最後にリスクを持つのは、為替ヘッジを外した投資家、満期を短くした借り手、価格下落時に売らざるを得ない運用者である。

次に見る数字は、日本の対米証券保有額だけではない。米財務省TICの国別・商品別保有、BISの円建て融資と為替スワップ、日米金利差、ドル円、BEAの第一次所得収支を並べる。「日本が何割貸したか」から、「どの入口を誰が選び、誰が為替と借換えのリスクを残したか」へ視点を移すと、米国の本当の強さと弱さが見えやすくなる。

この話のポイント

  • lens=professional_combined; lens_ids=contract_money_flow,yen_carry,predictability_duration
  • verified: 2026年Q1米国IIP、2025年6月末の日本による米国証券保有、BISの円建て融資・為替デリバティブ規模
  • inference: 多様な負債の入口と海外のリスク資産保有が米国の選択肢を広げる構造
  • unknown: 円キャリーの正確な総額、そのうち米国資産へ向かった割合、投資主体別の最終損益
  • next: TIC国別商品別保有、BIS円建て融資、日米金利差、USD/JPY、BEA第一次所得収支

参照資料

本記事は公開情報をもとにした観測メモであり、投資・融資・法律上の助言ではありません。