REIT / CAPITAL FLOW

プロは買った物件より、売った物件に本音を残す

REITの取得だけでなく、売却、資金の使い道、LTVの変化を並べると、運用者がどこへ資金を移そうとしているかが見えやすくなる。

新しい不動産の取得発表には、立地の魅力や成長性、期待される収益が整然と並ぶ。けれど、運用者の判断を知りたい時、売却側の記録のほうが静かに多くを語ることがある。どの用途を減らし、どの地域への配分を軽くし、得た資金を返済と次の投資へどう振り分けたのか。買ったものは未来への説明であり、売ったものは、持ち続けないと決めた結果でもある。

もちろん、売却は弱気の印とは限らない。価格が上がった資産の利益を確定する場合もあれば、築年数や修繕負担を考えて入れ替える場合もある。売却代金で借入金を返し、次の取得余力をつくることもある。だから、売却件数だけで撤退と判断せず、取得総額、売却総額、売却後の資金用途、用途別の資産配分を同じ期間で並べたい。

そこで重要になるのがLTVだ。LTVはLoan to Valueの略で、簡単に言えば、資産のうちどのくらいを借入金や投資法人債などの有利子負債で賄っているかを示す割合である。たとえば、100円分の資産に対して有利子負債が40円なら、単純化したLTVは40%になる。40%の損失が出ているという意味ではなく、資金の40%ほどを返済が必要な負債で調達している、という見方だ。

LTVが上がると、自己資金だけでは届かなかった取得を進めやすくなり、収益を押し上げる可能性がある。その一方で、金利上昇や借換え、資産価値の下落に対する余裕は小さくなる。LTVが低ければ常に優秀というわけでもない。借入余力を使わず成長機会を逃している可能性もあるため、数字の高さだけでなく、前期からの変化、固定金利比率、返済期限の分散、平均調達金利と一緒に読む必要がある。

もう一つ注意したいのは、LTVの計算方法が資料によって違うことだ。分母に総資産の帳簿価額を使う場合もあれば、鑑定評価額など時価に近い値を使う場合もある。同じ40%でも定義が異なれば、そのまま横に並べられない。比較する時は、まず各資料の注記を読み、同じREITの同じ定義で前期からどう動いたかを見る。その後に、定義をそろえられる範囲で複数の運用主体を比較する。

売却とLTVを結びつけると、資金の流れは少し立体的になる。売却代金を返済に回してLTVを下げたのか、別用途へ再投資して配分を変えたのか、現金として残したのか。含み益を確定した後、どのセクターへ資金が移ったのか。ここに鑑定評価額の前期差を重ねれば、プロが価値の上昇をどこで認識し、どこで利益を確定したかを追える。

この観測では、読者向け画面に個別の物件名は載せない。表示するのは用途、地域区分、取得・売却総額、純取得額、LTV、含み益・含み損の変化、資金用途とする。個別名に目を奪われず、資金がオフィス、住宅、物流、ホテルなどのどこからどこへ移っているかを見るためだ。一次資料との照合情報は内部記録に残し、公開時は集計値と出典だけを示す。

一社の一期間だけでは、市場全体の方向は決められない。同じ動きが複数のREITで続くか、次の四半期にも繰り返されるかを確認して、初めて資金配分の変化として扱える。取得の華やかさだけでなく、売却、返済、再投資を一つの循環として見る。プロの本音は、一つの発表文ではなく、その循環の中に残る。

この話のポイント

  • 取得総額、売却総額、純取得額の前期差
  • 売却代金が返済・再投資・現金のどこへ配分されたか
  • 同じ定義で計算したLTVの前期差
  • 固定金利比率、平均調達金利、返済期限の分散
  • 用途別資産配分と含み益・含み損の変化
  • 同じ動きが複数REITまたは複数期間で続くか

参照資料

本記事は公開情報をもとにした観測メモであり、投資・融資・法律上の助言ではありません。